トリスタンとイゾルデ

皆さんこんにちは!ウィーンは最近雨の日が続いています。

今日は先ほどワーグナーの最高傑作のオペラ「トリスタンとイゾルデ」のゲネプロから帰ってきました。午前11時から始まってオペラ座を出たのが午後4時。ワーグナーを聴くには相当な集中力と気合いが要ります。朝早く起きてまずヨガのクラスへ行ってサウナに入った後、スコアをしっかり見てオペラ座へ向かいました。ゲネプロは一般客が少なく関係者でいっぱいでした。誰も各座席の前の小さな台詞が出て来る画面を見ていない・・・流石。

私にとって「トリスタンとイゾルデ」ほど情熱的で胸が張りつめて息ができなくなる音楽はありません。序曲がなんて素晴らしい!この4時間にわたる3部オペラのすべてが実は序曲に詰まっています。

静かに幕が開き「愛と死」のテーマ。これでもか!これでもか!というほど完結しない不協和音が恐ろしく長いフレーズと共に続きます。聴いていて一幕目で頭がぼおっとしてきました。でも不思議とワーグナー・ワールドへ無理矢理弾き込まれて行き、最後にはあっと言う間に終わってしまったと思うぐらいです。

最後のイゾルデのアリア、ピアニッシモでトリスタンの死体の前で歌う愛のアリア。確実に彼女が昇天していくさまが聴こえる・・・ぞっとする瞬間です。涙が最後まで止まらなかったです。ウィーンフィルの美しい音、トリスタン役ーPeter Seiffertにイゾルデ役ーNina Stemme。最高のキャスティングでした。

ワーグナーのがトリスタンの作曲を試みたのが大作「ニーベルンゲンの指輪」4部作の途中でした。指輪の大作にお金がかかって仕方がないので小規模(!)の作品を作曲し売り込もうという思い立ちます。そこで絶好のパトロンが現れます。オットー・ヴェーゼンドンクという富豪です。彼はチューリッヒにある豪邸の離れをワーグナーに提供し、多額の援助をします。ところがなんとワーグナーはオットーの妻であるマティルデと恋愛関係に落ちいります。そこに別居していたワーグナーの妻ミンナがこの関係に気付き大騒ぎをします。このオットーという人はトリスタンに登場するマルケ王のように寛大で妻との関係を責め立てもせずなんと最後まで援助し続けます。

「自分は全人類のための至高の芸術を生み出すのであるから、他人は自分のために奉仕して当然である」と考えていたワーグナーほど自己中心的で非凡な作曲家はこの世にいません。ワーグナーはこの後も借金を重ね、自分で弟子でも支持者でもあった人の妻を略奪したり、バイエルンの国王、ルードウィッヒ2世にとてつもない資金援助をさせながら名作を残して行きます。とにかく驚く程のすごい人生です。神さまはそういうワーグナーの生き方でも彼の才能、運、インスピレーションを奪われませんでした。


今日ふと思い出したのですが、私がメニューイン・スクールを卒業した時に学校側から卒業生には一人一人好きなスコアがプレゼントされました。17才の私は何故か「トリスタンとイゾルデ」のスコアがほしい!とお願いし、頂きました。ベートーベンのピアノ協奏曲の全曲、モーツアルトのピアノソナタ全集などあるのになんて変わった子供だったのか・・・

やはり「究極なもの」が幼いころから好きだったのでしょう。

 美季